• コーヒーの多様性

私たちの消費活動が、誰かの「生きがい」につながる(えがおプロジェクト第2弾)

消費活動から生まれる「生きがい」と「えがお」

えがおforザプラネットでの活動を考える中で、障がい者についてのテーマは正直とてもセンシティブだと考えていました。取り扱うことで誰のどんなえがおにつながるのか、受け取り方によってはこの商品をネガティブに解釈される可能性も・・・。様々な要素が私自身の一歩目を阻んでいましたが、コロンビアで車いすの農家の方々やそのご家族のお話を聞き、今では取り組むことへの使命感すら感じております。コロンビアカウカ県の県委員会オフィスにて、輸出業者、石光商事のコロンビア担当と共に実情を伺う機会をいただきました。ひとりの車いすの生産者は、もともと建築関連の仕事をしており、当時はそれを生きがいだと感じていたそうです。不運にも交通事故によって下半身不随になってしまい、そこから人生は激変。国から仕事をあてがわれるも、残念ながら周囲の人たちとは完全に異なる扱いを受けてのお仕事で、とても悔しい思いをしたそうです。

「役立たずにはなりたくない」

少し興奮気味に、険しい表情で発したその言葉が衝撃的でした。日常では冗談でしか使わないような語彙でした。下半身不随という状況もさることながら、それによって生まれた疎外感、屈辱や過去の自分との比較など、多くの感情を抱えて生きていることを実感しました。

その後縁あって細々と小さなコーヒー農園をはじめ、毎日自分のペースで手入れをし、今ではそれが彼の生きがいになっているそうです。自分が手塩にかけて育てたコーヒーが、地球の裏側でおいしく飲まれ、誰かのえがおに繋がっていることを本当に喜んでくれていました。隣にいた奥様も、コーヒーの仕事をしている旦那さんは生まれ変わったようで、いつもえがおで幸せだ、とこれまた素敵なえがおで教えてくれました。彼のような境遇の方にとって、コーヒー栽培が新たな生きがいになりうること、またこのコーヒー栽培を続けることそのものが、彼や彼のご家族のえがおに繋がることを知り、ずっと続けてきたコーヒービジネスの新たな意義を感じ、一層コーヒーが好きになった瞬間でした。まずは彼らがえがおでコーヒーを作り続けられるよう、プロジェクトでの収益が彼らの困難を克服する新たな設備やシステムの開発につながるよう、現在も議論を重ねています。

おそらくこの記事を読み、商品として販売されるダイバース(多様性をもつ)コーヒーをネガティブに捉え、批判するケースもでてくるでしょう。私はそれでもいいと思っています。この記事や、彼らの作ったコーヒーがたくさんの方々の考えるきっかけになれば、それだけで今までの世界よりは前進しているはずです。これまでコーヒーを買うときに考えもしなかった事実が、皆様の消費活動の選択肢の一つになり、誰かのえがおに繋がるコーヒーがもっともっと広がっていくことを願っています。

生産地担当それぞれの想い

ブラジル担当 橋本工さん

ダイバースコーヒーというコンセプトのコーヒーはブラジルで最初に生まれました。身体障がいを抱えた農家たちにより作られたロットです。目的は、「多様性を尊重することによるコーヒーの品質向上、そして持続可能な「個性の応援」」です。彼らにしか作れないコーヒーを扱い、最終消費者へ多様性の持つ価値について考える機会を一緒に考えるきっかけになるようなものにしたいというところから生まれました。このダイバースコーヒーというコンセプトを作ることによる葛藤が今も正直あります。障がい者のコーヒーを取り扱うということは、逆に差別になるのではないか、と自問自答を繰り返していますが、明確な答えは見つかっておりません。ただこのプロジェクトを通じて、ブラジルの農家さんたちのコーヒーへの想いや家族に対する愛情、助け合いを垣間見ることができたことも事実です。実際にブラジルのコーヒー農園に足を運ぶと、障がいを持ちながらも、家族を冗談で笑わせたり、とても甘いコーヒーを出してくれたり、サトウキビのジュースをくれたりします。その都度心がほっこりしています。コーヒーを通じて人と人とがやさしさで繋がっていることに幸せを感じる瞬間です。それは障がいというものを超えたところにあるコトです。(※ブラジルは24年4月以降の販売を予定しております。)

コーヒーという飲み物を通じて、それぞれの人たちが作った個性、ストーリーに目を向けること、一緒に「より良い」を作っていくことを目指して少しずつ自身の考え方もより良いものに形づくっていきたいと思っています。

 

 

コロンビア担当 花岡風香さん

ポパヤンで今回の生産者の方々と初めて出会ったとき、彼らにこちらの思いがちゃんと伝わるだろうか、受け入れてくれるのだろうか、偽善者と拒絶されないだろうか、と不安ばかりで心が重たくなっていたことを思い出します。しかし実際に会ってみると、自分が彼らのことを必要以上に「特別視」していたことに気づかされました。彼らは他の生産者と同じく、当たり前に日々コーヒーを作っており、大変な仕事も家族で支えあい、自分の仕事にプライドをもってよりよい生活のため努力しています。そこに違いはないのです。それでもこのコーヒーでは、あえて彼らを主役にしています。彼らにスポットライトを当てることで、これまで気づかなかった視点に気づく人が出てくるかもしれません。日本やコロンビアにいる同じような状況の人や、その家族の明日が少しだけ明るくなるかもしれません。そして、彼らがこの先もおいしいコーヒーを作り続けるための一助にしたい、という私たちの思いがあります。

商品名のAMOR SIN PALABRASは「言葉のいらない愛」を意味します。私が産地でお会いした生産者はみんな少しシャイで言葉少なな印象でしたが、愛する家族と愛情を込めて作ったコーヒーは、自ずとカップにも表れています。

皆さんもこのコーヒーを通じてその愛の輪につながってくれることを願っております。

障がい者の現状(2021年時点データ)

以下「障がい者」に対し、一般呼称の障がい者には「障がい者」と表記し、法規上の呼称には「障害者」として表記致します。

▼障がい者数

障がい者は、身体障害、知的障害、精神障害の3区分に分けられ、障害者手帳を持つ身体障害者436万人、知的障害者109万人、精神障害者419万人となっています。人口千人当たりの人数では、身体障害者34人、知的障害者9人、精神障害者 33人で、国民のおよそ7.6%が何らかの障害を持っていることになります。ただし障害者手帳を持つことで自身を「障害」と認めたくない方、ボーダーラインの方などが居られ、おおよそ国民の10%弱が障害者であると推定されています。(1人で複数の障害を持つ方も居られます。)なお2022年には世界の人口が80億人を超え、アフリカをはじめ特定地域の急激な人口増がみられますが、世界のおおよそ15%が障がい者であるとされています。また日本における障がい者の施設入所・入院の状況を障害別にみると、身体障害における施設入所者の割合1.7%、精神障害における入院患者割合7.2%に対し、知的障害者における施設入所者の割合12.1%となっており、知的障害者の施設入所の割合が高い点に特徴があり、障害者の性別で見ると、65歳未満では 男性57.1%、女性が42.6%に対し、65歳以上では男性が49.5%、女性が49.9%となっています。

▼「障がい者」の定義を考える

身体障害、知的障害、精神障害それぞれに詳細な定義がありますが、これら障害者は「心身の機能障害があり、生活や仕事に制限を受けている人」とされています。つまり心身の障害を持っている点、生活、社会の制限を受けている点の2つを満たすことが「障害者」の定義になります。

▼日本における障がい者雇用状況

2021年障害者雇用状況報告では、対象障害者を1人以上雇用する義務がある民間企業において、毎年6月1日時点の障害者雇用の状況を報告することになっています。2021年の報告結果では、雇用障害者数が18年連続で過去最高を更新し、597,786.0人(前年578,292.0人)でした。雇用者のうち身体障害者 359,067.5人(前年356,069.0人)、知的障害者140,665.0人(前年134,207.0人)、精神障害98,053.5人(前年88,016.0人)と、いずれも前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が大きくなっています。また、民間企業が雇用している障害者の割合は2.20%(前年2.15%)で、雇用従業員の多い企業ほど雇用率が高い傾向があります。一方、法定雇用率を達成した企業割合は47.0%となり、雇用されている障がい者数も、全ての企業規模で前年増加しています。

▼障がい者を抱える家族の課題

障がい者の多くは家族と一緒に住み、両親、親族が中心となってサポートを行い、補助的に介護、ボランティアのヘルパーが支えています。こうした中で両親の高齢化が進み、家族からの独立(一人暮らし)が1つの課題となっています。要するに、両親が亡くなった後を考え、今のうちから一人で生活できるようになって欲しいという御両親の想いです。ただし実際には、障がい者の支援制度の不備、資金的な2点でなかなか進んでいません。障がい者の民間雇用は増加傾向でありながらも、多くはB型作業所(ほかA型作業所も)に入り、障害者年金を受給しながら生活をしています。

近年、日本政府による障がい者の一人暮らしを支援する資金政策も出始めています。ただ休日に1人になる不安など、精神的なストレスを抱える障がい者も多く居り、民間、ボランティアレベルで地域的な支援をしながら障がい者を支えていくことが重要になっていきます。