• 環境問題

環境の変化に負けない、真にサステイナブルなコーヒーづくりを

自然と共存するコーヒーづくり

コーヒーはなかなかデリケートな作物である。熱帯地域の避暑地のような適度な気温と寒暖差、そして比較的乾燥した気候を好む。一言でコーヒー農園といってもそれぞれの環境は大きく異なるため、それぞれの土地でコーヒーノキが好む環境を整える必要がある。

この環境づくりの方法の一つに「シェードツリー」がある。コーヒーノキが植えられているところに、より背の高い植物を植えることで、コーヒーノキにその名の通り適度な日陰をつくるというものである。緑の生い茂ったその風景は心落ち着くものだが、もちろん日照が少ないところでは逆効果になってしまうので、これがあればいつでもプラスの効果があるということではない。

このシェードツリーを使った栽培環境が増えていけば、自動的に緑が増えていくような印象を受けるが、実際には原生林を伐採して栽培面積を拡げるケースも多く、自然林が減少することにもなりかねない。いかに自然林を残したまま生産を行っていくかということがサステイナブルなコーヒーづくり、そして温暖化対策の大事なポイントであり、その点に注目した認証団体が存在することも広く知られているだろう。

グアテマラパレンシア地区の事例

筆者自身が本当の意味で自然林の大切さを知ったのは、グアテマラパレンシア地区でのこと。

当時産地担当であった筆者は、輸出業者が取り組む生産者グループ支援プロジェクトの視察のために現地を訪れていた。そこで目のあたりにしたのは、ところどころハゲ山になったコーヒー生産エリア。このエリアではもともとポテンシャルの高い原料を生産していたが、温暖化と干ばつにより徐々に生産量が低下。生活に困った生産者が、シェードツリーとしていた木々を伐採して材木として販売し、生活の糧としたことで、コーヒー生産がさらに衰退しているという悪循環の真っ只中だった。ハゲ山と化した農園を歩いて感じるのは、強い日差しと乾いた温風。温暖化のなかで日陰を失ったコーヒーノキは、気温や日照の変化によるダメージをまともに受け、光合成の効率を弱め、生産量も品質も低下させてしまう。この地に生まれ、学校にも通えずに大人になった生産者たちにとっては、目の前の生活が第一であり、未来は天から与えられるものと考えているのだと気づかされる。

そこから車で30分、ちょうど同じ山の反対斜面にあるリオコロラド農園は、グアテマラの自然保護区に位置する大農園で、敷地の約80%を自然林が占める。農園内には川が流れ、鳥がさえずり、すべてのコーヒーノキは緑のカーテンに守られ、青々とした葉が茂っている。

ほぼ変わらない気象条件でありながら、そこで感じるのは柔らかい日差しとやや潤いを感じるそよ風である。

同じエリアで、緑があるだけでここまで違うものかと痛感させられる。特に昨今の異常気象の中で、自然林の存在は環境の変化の幅を小さくしてくれる効果があるのだと身をもって感じた。

 

より多くの「えがお」のために

あれから5年経った2022年現在、輸出業者の技術支援を受けた前述の生産者グループは徐々に緑を取り戻し、生産量を向上させ、安定したコーヒー生産を続けている。我々はコーヒーを取り扱う業者として、また消費者として、生産者の安定的な生活と地球温暖化への対策として、自然を守りながら栽培するコーヒーを積極的に選んでいくことで、より多くの「えがお」をつくっていこうと考える。