• 後継者問題

品質、仕事を評価し続け、人と人とのつながりを楽しむ

se vende(売り出し中)

中南米の生産エリアを歩いていると、そう書かれた看板がある農園を幾度となく見かける。 特に国際相場価格が低迷している時にはその数が増えることが明らかで、また年々増加しているように感じられる。

近年の生産国の実情

2022年1月現在、コーヒー国際相場価格は高止まりしており、生産者はしっかりと利益を得られる状況である。しかしながらこれも繰り返してきた歴史の一部となる可能性がある。儲かると考え、コーヒー生産に新たに参入する人間が増え、需給が緩んで数年後に相場価格が下落する。国際相場の誕生以来、生産者も各業者もこの波に乗らざるを得ない状況が続いている。 かつて当たり前のように親から農地を受け継ぎ、その伝統を丁寧に守ってきたコーヒーづくりも、各国の経済発展とともに若者の農業離れが進んでいる。

母の田舎で、先祖代々続けてきた田んぼと畑を誰も継がなかったことを思い出す。 とある国では、かつてコーヒーの一大組織に勤めることがエリートとしてのステータスであり、収入も高水準だった。数十年経った現在、金融業やIT企業への就職が人気だという。その国の国内線の飛行機内の冊子には、レジャー施設として宿泊でき、観光農園として広告を出しているかつての大農園が掲載されている。もはや作物よりも「コト」で売った方が儲かるということか。

近年の生産国の変化は、消費国とは比べ物にならないほど目まぐるしい。このような状況になるのも無理はない。その要因は大きく2つ。 1つはコーヒー生産には手間と時間がかかるにも関わらず、利益がどれだけ出るかどうか、相場に振り回され不透明であるということ、もう1つは、若年層にとってコーヒー産業よりも見た目のカッコよさややりがい、利益が得られそうに見える生き方の情報が、手持ちの端末から溢れ出てくることだ。 一大生産国であるブラジルやコロンビアの生産者平均年齢を見てみると、およそ48歳と高齢化が進んでいることが分かる。一方消費国、特に先進国と呼ばれる国々ではバリスタやロースターの世界大会が行われ、むしろコーヒーやカフェ文化がクールなものとして、再度ファッション的要素を持ち始めている。生産者が減る一方で、消費者が増えるという矛盾が発生しているのだ。

ブラジルの幼稚園プロジェクト

生産者無くして、このすばらしい飲み物が生み出す「つながり」を持続することはできない。
子供たちや若い世代に、コーヒーを生産することで誇り、やりがい、そしてより幸せを感じてもらうために何ができるのか。その答えの一つが、当社で取り組んだブラジルの幼稚園プロジェクトである。

きっかけは当社の看板商品であるプレミアムショコラを長年供給してくれているサンコーヒー社からの、「サントアントニオドアンパロの古い幼稚園の一つを修繕したいのだが、共同で寄付をしないか?」という打診だった。これまでよりよい品質を供給し続けるためにコワークを続けてきたパートナーとして誇らしく感じるとともに、ただの寄付では終わらない、もっとみんなが楽しく参加できる形はないだろうか、と考えた。幼稚園の子供たちが「コーヒーは楽しいもの」、「世界とつながる入口になるもの」というイメージを持ってもらうことが、わずかでも「コーヒーのみらい」につながるのではないか、と。そこで考えだしたのが、子供たちの手形でコーヒーの花を咲かせるオリジナル麻袋だ。幼稚園に通う子供たちそれぞれに世界に一つだけのオリジナル麻袋をつくってもらい、それをきっかけに日本の自家焙煎の方々や消費者のみなさんとのつながりを感じてもらおうというものだ。小さな子供の手形はそれだけで愛らしいし、時がたてば成長を感じる一つのシンボルとして、親としての喜びも感じる。また子供たちが作った麻袋に、それぞれの名前を入れることで、地球の反対側に自分の作品が届く喜びを感じてくれるかもしれない。それを購入した自家焙煎の方々は、「コーヒーのみらい」とつながる楽しさや、新しい出会いを体感することができる。またその購買活動が幼稚園修繕という形で子供たちのプラスになれば、コーヒーで自分たちにもできることがあるのだと、少しだけえがおになるに違いない。

コーヒーが生みだすつながりを次の世代へ

このアイディアが情熱ある人たちに受け入れられるのは一瞬のことだった。サンコーヒーの中枢メンバーであるエンヒケさん、ファブリシオさんには深く共感していただき、実際にワークしてくれたアナさん、そして石光商事のブラジル担当橋本工さんに至っては、半年以上週一度ほどのペースでやり取りを続け、みんなの想いを現実のものとしてくれた。何よりこのプロジェクトを実行する私たちが、みんなのえがおを想像し、えがおが増えていることに気づかされた。
このプロジェクトは新たに立ち上げるえがおfor the planetの第一号プロジェクトとしてこのページにずっと残っていく。子供たちが、自分の作品が海を越えて誰かをえがおにしたこと、そして購入いただいた方たちが、子供たちやコーヒーのみらいに想いを馳せ、コーヒーで地球のえがおを少しだけ増やしたことは、それぞれの記憶にずっと残っていくだろう。コーヒーが生みだす素敵なつながりを、次の世代に残していくために、ユーエスフーズはえがおプロジェクトを絶えず続けていく。